#33 伊勢佐木町センタービル最後のドローイング

出品作家:烏亭 KARASU-TEI

会期:2022年10月1(土), 2(日), 7(金), 8(土), 9(日), 10(月祝) 

時間:14:00-18:00

座談の場:

10月01日(土)
16:00 〜
有原 友一(画家) × 田中 秀和(画家) × 烏山 秀直(画家)
10月02日(日)
17:00 〜
大久保あり(現代美術家) × 酒井一吉 (美術家) × 田中啓一郎 (美術家)
10月08日(土)
16:00 〜
石井 琢郎(彫刻家) × 諏訪 未知(美術家) × 烏亭(P.A.D)
10月09日(日)
16:00 〜
倉重 光則(現代美術家) × 勝又 豊子(美術家) × 烏亭(P.A.D)
10月10日(月祝)
16:00 〜
18:00 〜
21:00 〜
海保 竜平(写真家) × 田中 啓一郎(美術家)
移動準備 – 藤棚へ
クロージング

2021年7月3日開催のアズマテイプロジェクト#23「現れの場 酒井一吉」展初日。外壁に面さない行き止まりのこの部屋(通称3-C)には、花柄のステンドガラスという場違いな明かりとりが備え付けられている。壁を隔てた隣の事務所からわずかばかりの明かりをお裾分けしてもらう狙いだろう。その薄あかりの中に立ち現れたのは、あるべき壁が取り払われ、もはや部屋とは言えない状態をさらす開け放たれた空間だった。両脇の壁は突板(ツキイタ)が剥がされ、木造の軸組(ジクグミ)が露わにされ、剥がされた板が湾曲しながら構造体にもたれかかっていた。亜麻色と胡桃染の2色に塗り分けられたコンクリートの分厚そうな壁だけが、そこが室内であることをかろうじて示唆していた。

同展初日、正面に唯一元の姿のまま残された壁を使って烏亭のパフォーマンスは行われた。アズプロ宣言文を透明な塗料で壁に記し、その文字を炎によって焦がし浮かびあがらせるというものだ。縦書きで4列9行36文字の漢字で表記されていることもあり、壁に焦げついた文字は意味の読み取れない歴史的な碑を思わせる佇まいを見せていた。会期終了とともに、部屋の壁は板がぎこちなく元の場所に打ち直され、強度を増して何事もなかったかのように元通りの姿に戻された。施工時に印として番号がふられたテープやところどころ塗装の禿げた板の継ぎ目だけが、物言わぬ目撃者のようにこちらを窺っているようだった。

2021年9月23日開催の#24「闇の中の白い正午 倉重光則」展では、新たに付加された3面の壁に真っ白な塗料が塗られ、床もモルタルで仕上げられた。廊下とこの部屋を仕切る壁、そして天井だけが以前と変わらぬ姿で残されたことを除けば、板の継ぎ目もない小綺麗な新しい空間に姿を変えた。当然、烏亭が行ったパフォーマンスの痕跡は跡形もなく壁の向こうに封印された ―― 現在すでに取り壊しが決定し移転準備の真っ最中であるが、当時はこのビルが解体されるのはまだまだ先だとぼんやり思っていたし、いつの日かやってくる解体業者が白い壁の裏で息を殺して待ち構える焼きつけられた謎の宣言文に気づく瞬間……と、ニヤけるくらいの心持ちだった。――

2021年10月30日開催の#25 「ロマンティックに生き延びろ 烏亭」展では、460cm×280cmの巨大な白布に千の生菊花を円形に縫い付けた作品No.30102021-32を、壁の裏に潜む宣言文の少し手前に垂れ下げて発表した。黄、白、紫など大小様々な生菊花を縫い針でひとつずつ縫い付けるという作業は想像以上に過酷であり、親しい友人達の助けなしでは全て縫い付けることは不可能だったに違いない。すでに咲きこぼれるもの、蕾のもの、干涸びた花片を落としていくもの、と不揃いでひとつとして同じものはない。ぎっしりと隙間なく縫いつけようが、優雅に死が侵食を続けながらすべてが土色に変転していった。

2022年10月1日から始まる今展では、その美しくも無惨な姿を晒した菊花旗と、壁の向こうに焼き付けられた宣言文を結ぶ制作に取り組む。 緑色の階段をのぼり切ると、点滅を続ける蛍光灯が乾いた音をたてて人けのなさを助長していた。薄暗い廊下を左に曲がると街の喧騒が静かに消え入り、息を潜めなければいけないという気配に包まれ、どん詰まりの閉ざされた空間と対峙する。鈍い光沢を放つ真鍮製のドアノブには、簡素な掛金に施錠されずに南京錠がぶら下がっていた。立て付けの悪い古びた扉を引くと、軋みと同時にすえた匂いがゆっくりと流れ出て、滑るように注ぎ込む淡い光が部屋をぼんやりと浮かびあがらせていた。初めて見る窓枠の構造は昭和モダンなのか、正面に立ちはだかる壁は抽象絵画なのか。そして、不気味に散らばっていた床一面のカラフルなタイル。映画のセットよりも純粋で、上質な空間がそこにあった ―― あれから4年、 アズマテイプロジェクトがここ伊勢佐木町センタービルで行う最後の企画である。我々の宣言は4年前と変わらず、僅かな光さえも溢さずに枯れることはない。(東亭順)

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