#27 志田塗装ー虚実の皮膜

出品作家:酒井 一吉

会期:2022年2月19日(土) - 2022年3月20日(日)  土日のみ開場

   2/19, 20, 26, 27, 3/5, 6, 12, 13, 19, 20

時間:14:00-18:00

 私がアズマテイプロジェクトの向かいに借りた部屋には、入口に古びた建てつけの悪いシャッターがあり、その薄汚れた鼠色のスラットには黄変した白ペンキで「志田塗装」と書かれていた。室内は時が止まっているかのような昭和の空気をまとい、天井と壁は亜麻色に、床から腰高までは胡桃染にと二色に塗り分けられている。壁にはところどころ焦茶色の旧塗膜も残っており、塗り替えの痕跡から使われていた棚や事務机の残影が見て取れる。塗装とは、気分を一新するためや、建造物を劣化から保護し生活環境を衛生的に保つために行われる人間の営みである。巨視的にはその行為が風景になり、都市を形作っている。

 ここ横浜は近代塗装の発祥の地と云われ、開港とともに西洋式塗装技術が輸入された歴史を持っている。あるとき大家さんに何気なく志田塗装について尋ねたところ、志田塗装という事業者が過去に入居していた事実はないと云う。予想だにしなかったその一言に、私は愕然とした。

 穂積以貫の『難波土産』中には、近松門左衛門の芸論「虚実皮膜論」を解説してこう記されている。「(近松答曰)藝といふものは實と虚との皮膜(ひにく)の間にあるもの也。[…]藝をせば慰(なぐさみ)になるべきや。皮膜(ひにく)の間といふが此也。虚にして虚にあらず, 實にして實にあらず、 この間に慰が有たもの也。」

 本展では、見えていたはずの感覚を手がかりに志田塗装を演じることから展覧会を構成し、現代の新たな虚実の皮膜の構築を試みる。

酒井一吉(美術家)

酒井一吉 Kazuyoshi Sakai

1985年長崎県生まれ。2008年東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻領域卒業。被爆地ナガサキに一定期間残存した被爆遺構「旧浦上天主堂」を現天主堂の壁面に原寸大の映像を投影する『浦上天主堂再現プロジェクト』(2015) や同郷の彫刻家である北村西望作の『平和祈念像』に扮し、西望ゆかりの地へと赴く『平和祈念像パフォーマンス』(2015) など社会制度や文化的慣習との関わりの中で、場の形成と当事者性の獲得をテーマにプロジェクトを展開している。2020年よりアズマテイプロジェクト参加。主な展覧会に、「横浜 あの街を歩く 「草枕」のように手書きの地図で」(東京ベイガード ベネチア号、横浜、2021年)、「現れの場」(アズマテイプロジェクト、横浜、2021年)、「VIVIDOR〜人生を謳歌する人〜」(アズマテイプロジェクト、横浜、2020年)、「絵画へ向けて」(アズマテイプロジェクト、横浜、2019年)

OTHER SHOWS