#22 不在の向こう 2021 Over the Absence

出品作家:勝又 豊子

​企画:東亭 順


会期:2021年5月15日(土) – 6月13日(日) / 土日祝日のみ開場 14:00-18:00
5/15(土), 16(日), 22(土), 23(日), 29(土), 30(日), 6/5(土), 6(日), 12(土), 13(日)

私の作品の中で、人間の身体はいつも重要な位置を占めている。これまでは身体の拡大された部分が見る人の眼をあざむいて、少し違った世界に導いてくれる、ということが大きなテーマであった。

私という身体をレンズで覗き、被写体として写し出された自己の身体は或る時は廃墟の中に佇み、一部分と化す。或る時は拒絶したように立ち尽くす。さまざまなレンズの角度で提示されることにより、見る人は覆い隠されたさまざまな感覚をよみがえらせることができる。

又一方、身体の一部である皮膚の表面の痕跡、印を延々と描き続けることが、私の絵画へのアプローチであり、絵画性を意識した三次元的場の表出を模索し続けてきた。今回は私という身体ではなく、どこか消えうるような、はかない身体であるが、見ようとすればするほど逃げてしまうようなものを意識している。私たちの記憶、心に宿っている感情の痕跡を旅することが出来れば良いのだが。
〈勝又豊子〉

勝又豊子 Toyoko Katsumata 
宮城県生まれ 神奈川県三浦市在住
1971   宮城教育大学卒業

主な個展       
1985 「風景 – 鉄による」ときわ画廊 / 東京       
1987 「跳躍」ときわ画廊 / 東京 
1988 「IRON FANTASY」ギャラリー現 / 東京 
1989 「IRON FANTASY」藍画廊 / 東京 
1994 「包みこむ水」ギャラリー現 / 東京 
1995 「さまざまな眼 68」かわさきIBM市民文化ギャラリー / 神奈川
1996 「閉じ込められた現在」ときわ画廊 / 東京 
1999 「閉じ込められた現在 – 水」秋山画廊 / 東京
       「閉じ込められた現在 – 水」LAアートコア・ブリューリ・アネックス / ロサンゼルス
2001 「重い水」METAL ART MUSEUM HIKARINOTANI / 千葉
2003 「養分 – Nourishment」LAアートコア・ブリューリ・アネックス / ロサンゼルス
2004 「鏡の中の音」ギャラリー現 / 東京
2005 「皮膚 – 内と外」LA アートコア・センター / ロサンゼルス
2006 「皮膚 – 内と外」ギャラリー現 / 東京
2008 「Panorama Eye」ギャラリー現 / 東京
2012 「不在の向こう」ギャラリー現 / 東京
2013 「不在の向こう/2013」ギャラリー現 / 東京 
        「Over the Absence」EISFABRIK Blaue Halle / ハノーファー、ドイツ
2014 「Red Room」ギャラリー現 / 東京
      公開制作「不在の向こう」宮城県美術館 / 宮城
2015 「よく見る夢 – 断片的な情景」ATELIER・K / 横浜
2016 「よく見る夢 – それから」ギャラリー現 / 東京
2016 「よく見る夢 – 海辺・異国」奈義町現代美術館ギャラリー / 岡山
2018 「よく見る夢 – 沈黙」Steps Gallery / 東京
    「光と闇 – おとぎばなし」Gallery TURNAROUND / 仙台、宮城
2019 「おとぎばなし」city gallery 2320 / 神戸

主なグループ展
1988 「第2回神奈川アート・アニュアル」神奈川県民ホールギャラリー / 横浜
1997 「ヨコスカのプロフィールー5」カスヤの森現代美術館 / 横須賀
         「ロサンゼルス・インターナシヨナル・アートフェスティバル」 LA アートコア / ロサンゼルス
1999 「LUSH LIFE」ギャラリー12P.M / ミュンヘン、ドイツ
2002 「OVER TONEー美術における第四次元・日米作家展」神奈川県民ホールギャラリ ― / 横浜
         「都会のロビンソンー日独現代美術家4人展」C・スクエア / 名古屋
        「Memorabilia」ゴリアッシュ・ヴィジュアル・スペース / ニユーヨーク
2003 「アートみやぎ 2003」宮城県美術館 / 宮城
2004 「Hand in Hand / Contrasts」クブス・ハノーファー / ハノーファー、ドイツ
2008 「SLOW TIME」LAアートコア・センター / ロサンゼルス
2010「美術の地上戦―OVER TONEⅡ」神奈川県民ホールギャラリー / 横浜
2011「3人の展覧会」LA アートコア・アト・ザ・ユニオン・センター / ロサンゼルス
2013 「インターナショナル・ アート・フェスティバル・イン・タイ2013」ポーチャン・アカデミー・オブ・  アート /タイ
2014 「4人展」LA アートコア・ブリューリー・アネックス / ロサンゼルス
2015 「INTERNATIONAL WOMEN’S CONTEMPORARY ART FORUM」BankART Studio NYK(横浜)
2017 「Why do some clocks tick differently?」日本+ドイツ8人展 アガーテンブルク城 / アガーテンブルク、ドイツ
2019 「ART NOMAD on the GRID」LA アートコア / ロサンゼルス
2020 「VIVIDOR – 人生を謳歌する人 – 」アズマテイプロジェクト / 横浜

国内のみならず国外でも精力的に作品を発表している勝又さんとの出会いは、2016年にスイスにある美術館で企画された展覧会『Japan im Palazzo』に参加したのがきっかけだった。バーゼルのシェアアパートで約十日間、招待作家らと共に賑やかな時間を過ごした。設置作業を終えてそれぞれが寛ぐ時間に、食卓を囲みワインを傾けながら勝又さんと色々な話をしたことをよく憶えている。

帰国後、展示のために足を運んだ場所のひとつが奈義町現代美術館で開催された個展『よく見る夢ー海辺・異国』である。立体、映像、写真やドローイングなどで構成された内容で、ある壁面には全体を覆う海や空の映像、別の壁面には赤い鉛筆で描かれた渦巻状のドローイング、また別の壁面には一見すると絵画のように見える大きな写真作品たち、そして身長ほどの縦幅を有する鉄製の薄い箱状の立体が6点床に規則正しく並べられ、その中を覗き込むと水面を漂っているかのように石膏で象られた顔面が浮かび、ワックスがうねる波のように塗りたくられていた。それらの作品は、例えば雨上がりの匂い「ペトリコール」や目を閉じると色や模様が現れる「入眠時心像」、肌触りの良い生地などに触れると気持ちが落ち着く「ブランケット症候群」のような、誰もがかつて経験しているはずだが言い表しにくい「あの感覚」や「あの記憶」などを思い出させ、淡く儚さをも呼び寄せてくるものだった。そして作品内容のもつ柔らかさや判然としないさまそのものを取りこぼさないためであるかのように、重厚な鉄製フレームや台座がしっかりと支えていた。

2020年秋には『♯16 VIVIDORー人生を謳歌する人ー』への出品を快諾していただき、展示をご一緒する機会を得た。そしてこの度ついにアズプロでの個展開催の運びとなった。ひと足先に銀座Steps Galleryでの個展が決まっていたので立て続けの発表になるが、新しいアトリエで制作されている作品が今回はどのような形で見る者それぞれの記憶や経験を呼び覚ましてくれるのだろうか。勝又さんの作品に満たされた空間で、また色々な話ができるのが嬉しい。

〈烏亭 (烏山秀直+東亭順)〉

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